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F.ハーズバーグの動機づけー衛生理論
ー仏教との類似性についてー

 フレデリック・ハーズバーグ著、北野利信訳『仕事と人間性』(東洋経済新報社)を読むうちに、ハーズバーグの説と、仏教の説に、重なり合うところがあるという印象を受けました。そこで、若干の考察を試みてみました。

動機づけ要因と衛生要因

  

 臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグは、仕事をする人が、満足を覚える要因と不満を抱く要因について長期間かけて調査、研究しました。ハーズバーグが作った次の図が、多くを語っています。

  

グラフ:満足要因と不満足要因の比較

  

 図の右側は高感情すなわち満足を、左側は低感情すなわち不満を表します。箱の長さは感情が発生した度数、箱の幅は感情が継続した期間を表わしています。

 この図によれば、点線から下の「会社の政策と経営・監督技術・給与・対人関係ー上司・作業条件」などは、不満の度数が多く、満足の度数が少ないという傾向があります。これらの要因が欠けたり悪化したりすると不満が生まれ、改善されると不満が収まります。改善されたときに高感情(満足)がみられることがあっても、短期間で終わっています。

 点線から上の「達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進」などは満足の度数が多く、不満の度数は少なめです。これらの要因があると働く人に満足が生じます。これらの要因が欠けているときに生じる低感情(不満)は、短期間で終わっています。

 点線から下の要因は「改善すれば、不満という不健康な状態が治る」というような意味合いで「衛生要因」、上の要因は「動機づけにつながる」というような意味合いで「動機づけ要因」と呼ばれるようになりました。

 ハーズバーグの「動機づけー衛生理論」は、モチベーション理論の中核の一つとなっていますが、私には人間一人一人の資質を考察した話とも受け取れます。

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衛生要因

  

 ハーズバーグは、人間には、痛みを回避したいという動物としての欲求があり、衛生要因はこの欲求に対応していると考えています。ここに上げられている5つが主要な衛生要因です。

 「会社の政策と経営」とは、会社の目的や経営の仕方、管理の適・不適などです。

 「監督技術」とは、上役の管理・監督の能力や、上司が自分たちを公平に扱うかどうかということです。

 「給与」とは、上がっていいはずの給与が上がるか上がらないかということです。

 「対人関係ー上役」とは、自分と上役との人間関係が良好かどうか、いざこざがあったり、反目し合ったりしていないかということです。

 「作業条件」とは、仕事の量、設備や工具の適・不適、排気や照明など作業環境の適・不適などです。

 これらの衛生要因は、いずれも仕事自体ではなく、仕事の周辺の環境・条件です。いうなれば待遇が良いか悪いか、居心地が良いか悪いかということです。

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動機づけ要因

  

 ハーズバーグは、人間には、精神的に成長したいという人間としての欲求があり、動機づけ要因はこの欲求に対応していると考えています。ここに上げられている5つが主要な動機づけ要因です。

 「達成」とは、仕事で成果を上げること、問題を解決すること、仕事上の競争に勝つことなどです。

 「承認」とは、直接の上司、上役、同僚、顧客などに認められること、称賛されることなどです。

 「仕事そのもの」とは、その仕事を行うことに意義ややりがいを感じることです。

 「責任」とは、仕事で責任と権限を持つことです。

 「昇進」とは、組織内の身分や地位が実際的に上がることです。

 動機づけ要因は、どれも仕事に関することです。

 仏教では、人格と人格の触れ合いが動機づけに深く関わっていると考えていますが、ハーズバーグは、人間関係は動機づけ要因ではなく、衛生要因であると考えているようです。

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衛生追求者の特徴

 痛みを回避するために、衛生要因を追及して止まない人たちを、ハーズバーグは衛生追求者と呼び、その特徴について詳しく検討しています。

 衛生追求者は、仕事に対する問題意識は希薄です。その代り、仕事を取り巻く環境・条件に対しては神経をとがらせます。そして、衛生要因(会社の政策と経営・監督技術・給与・対人関係ー上司・作業条件など)に対して、常に何らかの不満を抱えています。衛生要因が改善されると不満は消えますが、満足は生じません。

 衛生追求者は、仕事で成果を上げようという気持ちにはなりません。それどころか精神的成長を求めて仕事に励んでいる人を見下すことさえあります。

 衛生要因のみを追求する人たちのすがたは、仏教で言う煩悩にまみれた生活をしている人たちのすがたに重なります。精神的成長に背中を向け、人生の真の価値を見失っている点や、環境・条件に依存し、他人に対して自分を居心地良くするように要求している点で、両者には共通するところがあるように思われます。

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動機づけ要因追求者の特徴

  

 自らの精神的成長を求めて努力する人たちを、ハーズバーグは動機づけ要因追求者と呼んでいます。その特徴は、衛生追求者の特徴の裏返しになっています。

 動機づけ要因追求者の関心は仕事に向けられます。意義ある仕事、やりがいのある仕事を求め、仕事を通して自分のスキルを高め、精神的成長を遂げることを目指します。生涯を通して自分を高めていくことに意義を感じ、積極的に仕事に取り組みます。

 仕事を取り巻く環境・条件すなわち衛生要因が欠乏していても、衛生追求者のように騒ぎ立てることはありません。しかし衛生要因を求めていないわけではなく、あまりにもひどい時には、不満を表明することもあります。

 動機づけ要因追求者の特徴は、仏教における菩薩の姿に重なります。菩薩は自らの人格向上を目指して智慧と慈悲を深めながら、人々を意義ある人生に導き、よりよい社会の建設にいそしみます。

 人生の真の価値を求め、自主・自律の姿勢で努力する点で、両者には共通するところがあるように思われます。

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人間の二つの欲求

  

 ハーズバーグは、人間は二つの基本的な欲求を持つと考えました。

 人間には動物としての欲求があります。自分の生存・存在を脅かす環境・条件を回避して、安全に、快適に暮らしたいという欲求です。環境・条件が悪化して痛みを感じると不満を持ちます。痛みが回避されれば不満が無くなります。動物的欲求は衛生要因を追求する欲求です。

 人間にはまた、人間としての欲求があります。精神的に成長して自分の潜在能力を現実化したいという欲求です。この欲求が満たされますと満足を覚えます。満たされなくても不満が生じることはありません。人間的欲求は動機づけ要因を追求する欲求です。

 ハーズバーグは衛生要因を追求することが悪いと言っているのではありません。生存のためには必要なことだからです。ただ、衛生要因を求めるばかりで、動機づけ要因に心を向けなくなることを心配しているのです。

 動物的欲求を適度に充足しながら、人間的欲求を追求することが、人間らしい生き方だと考えられるのです。

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精神的成長

  

 ハーズバーグは人間的欲求としての精神的成長について6つの要点を提示しました。

 第1は、正確な知識を豊富に持つことです。自分の仕事に関する知識はできるだけ多く持ちたいものです。

 第2は、知識と知識の関係を正しく知ることです。知識を実際に役立てるには、その間の関係を正しく知らなければなりません。

 第3は、創造性があることです。知識と知識の関係の中に新たな価値を見出すのです。自分にとっての創造性が基本です。

 第4は、あいまいな状況の中で、正しい意思決定を行なうことです。現実は常にあいまいです。

 第5は、自分の独自性を維持することです。創造性を発揮すれば、自然に独自性が生じます。周囲からの圧力に耐えて独自性を維持することが大切なのです。

 第6は、以上の5つの要点を現実の中で実行し、これを通して自ら成長を遂げることです。行動しなければ何も起きませんし、何も実りません。

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ハーズバーグと釈尊

  

 釈尊が経営者に対し、従業員に食物・給料・休息・病気の時の医薬などを与えるように勧めている経典があります。同時に従業員に合った仕事を与えることを勧め、これに対応して従業員には、与えられた仕事に真剣に取り組むことを勧めています。

 ハーズバーグの理論でこれを解釈しますと、衛生要因を充足しながら、動機づけ要因にも配慮することを勧めていると見ることができます。

 釈尊はこの指導に先立って、経営者に対し、生活を整え、ヒューマンスキルを向上し、人間的に成長することを勧めています。こうした土台があって始めて、従業員に対しても、意義ある対応ができるわけです。

 ハーズバーグは、動物的欲求ばかりを追求している経営者では、従業員を動機づけ要因に向かわせることはできないと指摘しています。

 ハーズバーグの理論と釈尊の教えは、表現はそれぞれですけれども、同じ方向を向き、同じ内容を語っていると、私には受け取れます。

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難題

  

 ハーズバーグによれば、人びとは昔から痛みを回避したいという動物的欲求を追求してきました。社会を支配する制度や思想は変遷しましたが、その根底では常に動物的欲求を追求していました。産業が実質的に社会を支配してる現代も、この点に変わりはありません。

 動物的欲求を持ちながらも人間的欲求を中心に活動すれば、痛みの回避もできますし、精神的成長もできます。

 しかし、多くの人々は、そのようなありかたを思い描くことさえなく、動物的欲求を中心に生きているようです。

 ハーズバーグは私たちに呼びかけています。「このままではいけない、何とかしなければならない、何とかなる可能性が人間にはある」と。

 釈尊は、人間の苦悩の原因は無明・煩悩にあると指摘し、人々を智慧と慈悲を備えた実践へ導こうとしています。しかし無明・煩悩に支配されながら生きている人々が圧倒的に多い現状を打開するのは、至難であるように思われます。

 だからこそこの難題に取り組まなければならないと、釈尊は、私たちに呼びかけ続けています。

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