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経営者と従業員への教え

原始仏典『シンガーラへの教え』から

 

 仏教経典「シンガーラへの教え 善生経」は、一般の人々を対象にして説かれた教えとして有名です。

 この経典には、正しい生活態度、正しい職業のありかた、正しい人間関係のありかたなどが詳しく説かれています。

 その中から、経営者の従業員に対する正しい向かい方、従業員の経営者に対する正しい向かい方を説いた部分を、紹介したいと思います。

人間関係の教え

 「シンガーラへの教えー善生経ー」(中村元訳『原始仏典第三巻』春秋社)は、父の跡を継いだ若き長者シンガーラに釈迦牟尼世尊が説いた教えを伝えたものです。

 この経文には、善い人間関係とはどういうものか、悪い人間関係とはどういうものか、具体的に、分かりやすく説かれています。古代インドで説かれた教えであるのに、現代を生きる私たちに向かって直接説いていると感じてしまうほど生々しい教えです。

 この中に、主人と奴僕・傭人それぞれのありかたを説いた経文があります。現代に置き換えれば、主人は経営者、奴僕・傭人は従業員に当たります。

 釈迦牟尼世尊は真理に基づいて、人間平等を説きました。「生まれによってバラモンなのではない、行ないによってバラモンなのである」という言葉は有名です。世界で初めて男女平等を説いたのも釈迦牟尼世尊でした。

 ここでも、経営者と従業員は人間として平等であり、互いに生かされ合い、生かし合いの関係にあるべきことが説かれていると見ることができます。

経 文

 経文の、該当部分を抜粋します。

 実に主人は次の五つのしかたで、下方に相当する奴僕・傭人に奉仕しなければならぬ。すなわち、

  1. その能力に応じて仕事をあてがう、
  2. 食物と給料とを給与する、
  3. 病時に看病する。
  4. すばらしい珍味の料理をわかち与える、
  5. 適当なときに休息させることによってである。

 実にこれらの五つのしかたによって主人は、下方に相当する奴僕・傭人に対して奉仕するのである。

 また奴僕・傭人は次の五つのしかたで主人を愛さねばならぬ。すなわちかれらは

  1. 〔主人よりも〕朝早く起き、
  2. のちに寝に就き、
  3. 与えられたもののみを受け、
  4. その仕事をよく為し、
  5. 〔主人の〕名誉と称賛とを吹聴する。

 実にこれら五つのしかたによって、立派な主人は下方に相当する奴僕・傭人に奉仕する。また奴僕・傭人はこれら五つのしかたによって立派な主人を愛するのである。

 このようにしてかれの下方は護られ、安全で、心配がない。

 (「シンガーラへの教えー善生経ー」中村元訳『原始仏典第三巻』春秋社より)

「奉仕する」と「愛する」

 ここに「経営者(主人)は、従業員(奴僕・傭人)に奉仕しなければならぬ」とあり、「従業員は経営者を愛さねばならぬ」とあります。

 これを読んで、奉仕すると愛するが逆ではないかと思う人がいるかもしれません。しかし、逆ではないのです。

 経営者の中には、自分は従業員より偉いと奢ったり、従業員を自分の意のままに支配しようとする人が少なくないようです。このように、従業員を見下しがちな経営者に対して、従業員の人格を尊重して奉仕することをすすめているのです。

 一方従業員の中には、自分はどうせ雇われている身だなどと卑屈な心になったり、経営者の目をごまかそうとしたりする人もいます。このように、経営者と対立する気持ちを抱きがちな従業員に対して、経営者を身内のように思い、経営者と一体となって仕事をするように、愛することをすすめているのです。

 経営者も従業員も、共に生きていく人間同士なのだよと、釈迦牟尼世尊は言っているのだと思います。

仕 事

 経文では、経営者に向かって「その能力に応じて仕事をあてがう」とあります。経営者が従業員の資質・能力を見定めて、適切な仕事に配属すべきであると言っているのだと思います。

 従業員に向かっては、「その仕事をよく為し」と言っています。従業員は担った仕事をしっかりと行ない、自分の役割を果たすわけです。

 経営者は、従業員に成功させるのが使命の一つです。すべての従業員が成功している会社なら、経営者は大成功を収めているはずです。

 従業員の成功を願い、その能力に応じて仕事をあてがうのです。それに呼応して従業員が、その仕事をよく為すのです。経営者と従業員の阿吽の呼吸が感じられます。

 経営者が従業員に奉仕すること、従業員が経営者を愛することが、ここで具体化されるのだと思います。

 このようにして、経営者と従業員が互いに相手を思いやりながら、自分のなすべきことをなしている会社は、発展が約束されるのではないでしょうか。

チームワーク

 釈迦牟尼世尊は、人と人とのつながりを重視する方です。従業員に対する「その仕事をよく為し」という経文には、従業員同士の連携、すなわちチームワークが含まれているに違いないと思います。

 従業員一人一人がそれぞれの役割を果たしている状態は、チームワークの基礎になります。

 それぞれの人のそれぞれの役割は、密接に関わりあっているはずですから、関わりを意識しながら仕事を推進すればチームワークが生まれると思います。

 そのとき、自分の仕事がうまくいくように他の人が協力してくれることを第一に考えがちですが、これは順番がちがいます。第一に考えるべきなのは、他の人たちの仕事がうまくいくためには、自分が役割をどのように果たせばいいのかを考えて行動することです。

 それぞれの人が、自発的に、この順番で考え、行動するようになれば、素晴らしいチームワークが生まれると思います。更に経営者が、このチームワークに加われば、素晴らしい会社ができるに違いありません。

報 酬

 経文に「食物と給料とを給与する」とあります。これは仕事の報酬の話だと思います。

 このお経の別のところに、働いて得た収入の使い方について次の経文があります。

 「財を四つに分けて、一つを生活費に使い、二つを仕事を営むために使い、残りの一つをいざというときのための蓄えにしなさい」

 この経文によれば、報酬は、生活費・仕事の継続・蓄えに使うこととなります。これが基本なのだと思います。経営者は、この基本をわきまえて報酬を与え、従業員はこの基本をわきまえて、得た報酬の使い道を考えるべきでしょう。

 また経文に「すばらしい珍味の料理をわかち与える」とあります。これも報酬の一つであると思いますが、経営者だけが贅沢をすることを戒めているニュアンスが感じられます。従業員は敏感です。経営者に尊重されていると感じますと、モチベーションがひとりでに向上することを忘れてはならないと思います。

労働条件・福利厚生

 経文に「適当なときに休息させる」とあります。この経文は、現代日本の労働基準法に詳しく定められている労働条件を連想させます。

 適当なときに休息するのは、重要なことです。休憩・休日・休暇を適切に与えれば、仕事の質がよくなり、仕事をこなす量も増えることが分かっています。

 休憩・休日・休暇をとらずにいると、仕事の質は落ち、量も減るばかりか、本人が参ってしまうことさえあります。過労死などはその極限の姿だと思われます。

 また、経文に「病時に看病する」とあります。従業員が病気や怪我で働けなくなったとき、適切に看病してあげるのです。これは福利厚生の話だと思います。現代日本の労災保険、健康保険を思い出させてくれます。

 カースト制度で凝り固まっていたと言われる古代インドで、釈迦牟尼世尊は、経営者(主人)に向かって、従業員(奴僕・傭人)の労働条件を整えてください、福利厚生を充実させてくださいと語っているのです。人間尊重の精神の深さを感じないではいられません。

勤務態度

 経文に「主人よりも朝早く起き、のちに寝に就き」とあります。ここは「主人よりも早く起きなさい」「主人が寝てから寝なさい」と命令形で解釈してはいけません。

 釈迦牟尼世尊は人に命令する人ではありません。

 主人を愛する心があるから、主人よりも早く起きずにはいられないのです。主人がまだ仕事をしているのを見れば、自分だけ先に寝る気持ちにはなれないのです。

 「主人よりも早く起きる」「主人が就寝してから自分も寝る」というのは、現代感覚で考えれば、遅刻をしない、時間いっぱい働く、就業時間中に仕事をさぼらないというようなことだと思います。要するに勤務態度の話でしょう。

 このお経の別のところに、次の経文があります。

 「仕事の能力を身につけ、熱心に働いて財を得、一家を支える者として、家族から信頼されるようになりなさい」

 真心こめて仕事に励むことは、自分や家族の幸せに直結することを、忘れてはならないと思います。

メンバーシップ

 経文に「主人の名誉と称賛とを吹聴する」とあります。経文にはまた「立派な主人」とありました。「立派」とは、手元の国語中辞典では「完全といってよいほど優れていてみごとであること」とあります。従業員からみて立派であると同時に、社会的にも名誉を得たり称賛されたりしている経営者であれば、吹聴したくもなるのではないでしょうか。

 経営者をこのように尊敬していれば、この会社で、この経営者のもとで、役割を担って働くことに喜びを覚え、誇りを持つに違いありません。

 自分はこの会社の一員であると自覚し、誇りに思うことを、メンバーシップがあると言います。従業員たちがこのようなメンバーシップを抱くような会社であれば、充実した経営を続けることができるにちがいありません。

 メンバーシップは、経営者に対する親しみと尊敬から生まれると言われています。経営者には、従業員にメンバーシップを生み育てることのできる人格を備えて頂きたいと思います。